大学病院でも診断が非常に難しい認知症の一つピック病。転職したばかりの看護師には厄介な病気として知られていますが、皆さんの周りにも、この病気を抱えた人がいるかもしれません・・・。大学病院への転職を考える看護師としてピック病は必須と言える知識でしょう。
大学病院で扱う認知症の分類としてはアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症が有名ですが、今回ご紹介する「ピック病」(Pick disease)はアルツハイマー型でも脳血管性でもなく、前頭側頭葉変性症と呼ばれる疾患概念における中核的な病気です。一般的な症状しか知らない内科などからの転職では分かりにくいかもしれませんが、ピック病は認知症の一つなのです。ピック病では大脳のうち前頭葉と側頭葉が萎縮を起こし、神経細胞に「ピック球」と呼ばれる病変(ある種のタンパク質の蓄積)が認められます。
■ある日、突然「犯罪者」に?
現在のところ、国内には1万人以上のピック病患者がいると推定されています。ピック病が恐ろしいのは、症状として人格変化をもたらすところです。例えば、急に人が変わったように無視したり馬鹿にした態度をとったりする、大学病院での診察に対して非協力・不真面目な姿勢を見せる(大学病院での診察時に腕や足を組んでいる、認知症検査をやってもらおうとすると激怒するなど)といったことです。より重大なピック病として、万引き(窃盗)や他人の家に勝手に上り込むなど、反社会的な行動となって現れることもしばしばあります。それでも、ピック病の本人に病識はありません。
さらにやっかいなのは、ピック病は大学病院でも非常に診断が難しく、アルツハイマー型認知症と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられ、転職したばかりの不慣れな看護師から不適切な治療やケアを受けるケースも少なくありません。大学病院を受診して何らかの病気と診断されるのはまだいいほうで、万引きなどで逮捕された末、単純に隠れていた犯罪性向が表に出てきただけと判断されれば悲劇です。ピック病は40~60歳で発症することが多いため、働き盛りで分別もあるはずの中年者が突然「犯罪者」となり、職を追われるケースも十分に考えられるからです。
また、大学病院でピック病患と診断されたとしても、看護師による介護サービスを受けることさえ難しい現状もあります。粗暴な行為や徘徊がありながら高齢者に比べて力が強い中年者が利用しようとした場合、受け入れを困難と見た看護師から拒否されるケースも少なくないそうです。
■ピック病が疑われる症状は?
大学病院では知られているピック病は社会的な認知度も低く、ピック病本人には病識がなく、アルツハイマー型認知症と違って初期には記銘力や見当識が保たれ、若年性に発症するため、「もしや認知症では?」という気づきに至ることさえ難しいのが実態です。ただ、先に紹介した症状のほかにピック病には以下のような様子が見られたら、ピック病を疑って受診を促してもいいのかもしれません。
・常同行動:生活上の用事を決まった時刻やパターンで繰り返す
・滞続言語:会話の流れとは無関係に同じ話を繰り返す
・感情の鈍麻・荒廃:無気力、無関心、無表情
・異常行動:浪費、過食・異食など
・自制力の低下:相手の話を聞かず一方的に話し続けるなど